ストレスでご飯が食べられない状態になっていると、いずれは栄養貯金を使い果たして病気を引き起こします。
必要以上のストレスを起こさないための生活習慣やご飯が食べられない時の食事を、疲労という観点から対策する方法をお伝えいたします。
※この記事は、2020年に「うつ病の原因遺伝子」に関する論文を発表した慈恵医科大学の教授・近藤一博氏が、2019年に発表した論文「疲労による健康障害の分子機構に基づく予防法の開発」をもとに解説しております。
ストレスでご飯が食べられない理由と疲労の関係性
ストレスでご飯が食べられない理由
ストレスは頑張りスイッチ&我慢スイッチで、脳は戦闘モードになっています。
その結果、消化器官は冬眠モードに入り、空腹感はなかなか起きにくいです。
この時に無理をして食べても消化のスイッチが入らず、結果的に消化管への負担をかけてしまいます。ほんの少量の食事でも、すぐに満腹状態になる可能性も高いです。
これが続けば体に不具合が起こることは誰もが理解できることですが、この状態が起こる以前に体がサインを出していることが分かりました。
疲労による食欲の低下
ストレスが多いから体が疲れると誰もが思っていますが、実は逆であることが論文を読んで分かりました。疲労へのケアをしないと、ストレスケアもできないといえます。
まず最初に理解しておかなければいけないのが疲労感と体が感じる疲れの違いです。
生体アラームである疲労感を無視し続けると体の疲れが蓄積し、最終的には動けなくなります(最悪の場合は死亡)。
この2つの原因となっているのが疲労因子「リン酸化eIF2α」です(疲労の直接の原因)。
ここで食欲の低下と関係してくるのが細胞のアポトーシス(細胞死)です。
私たちの体は、食べたタンパク質や体のタンパク質を分解したもの(アミノ酸)を体内で合成して作り変えるという作業を行っています。この時に必要なのが「eIF2α」で、合成されたタンパク質は胃や肝臓や腸といった臓器・皮ふ・赤血球などの材料になるのです。
ところが、「eIF2α」がリン酸化した疲労因子が増えるとタンパク質の合成が難しくなります。細胞が死んで臓器が機能しにくくなると消化や吸収の機能が低下するため、食事を受け付けなくなったり食べた栄養素が吸収できなくなったりします。
疲労に対するストレスの役割
- 勉強をする時
- 仕事が立て込んでいる時
- 子育てしている時
- 運動をしている時
少々の疲れがあったとしても、私たちは頑張らなければいけない時があります。こういう時に活躍してくれるのがストレスです。
炎症性サイトカインを抑えるコルチゾールとやる気を出させてくれるアドレナリン・ノルアドレナリンのおかげで、大した疲れも感じずに頑張れる仕組みが備わっています。脳がストレスを感じると疲労感を抑制するため、わりと過酷な状況でも頑張れるのです。
ところが、ストレスホルモンには2つの問題点があります。
疲労感を減らすストレスで頑張れるのであれば、ストレスホルモンが出続けるような栄養素を摂取すれば疲れも感じにくくなると考えたくなるのが人だと思います。手っ取り早いサプリメントや栄養ドリンクで補給できれば、頑張り続けることは可能です。
しかし、ストレスホルモンが出続けるような生活を送っていたら、疲労感は減らせても疲労因子は減りません。その結果として起こるのが最悪のケース「死」です。
疲労とストレスに関して詳しく知りたい方には以下の本がおすすめです。
疲労を減らす方法
疲労(体の疲れ)を減らすためには、もともと私たちの体に備わっている疲労回復因子を増やす生活をすることです。
疲労回復因子は疲労因子「リン酸化eIF2α」からリン酸を取り除く酵素で、脱リン酸化酵素と呼ばれています。加齢とともに減少しますが、休息や軽い運動によって増やせることが分かっています。栄養素によって産生を促すこともできます。
ただし、栄養素の摂取に関しては注意が必要です。2021年現在、疲労感を抑える栄養素は分かっていますが、疲労を回復させる具体的な食品は分かっていません(※)。そのため、自分がどれほど疲れているのかを感じ取り、しっかりと休息を取るのが望ましいです。
※2020年の日本疲労学会で「γ-オリザノール」「ポリアミン」が疲労回復因子を増加させることが発表されたようですが、まだ研究段階なので過信はできません。
ストレスでご飯が食べられないと感じているのは、だいぶ体の疲れがたまっている証拠です。プライベートの予定よりも体を休める時間を確保しましょう。眠れないからといってスマートフォンをいじっている場合ではありません。
ストレス時の簡単食事術
「ストレスでご飯食べれない!」となっている時は、消化能力が落ちている可能性があります。無理をして食べるよりも休息が第一選択ですが、最低限のエネルギーは確保しておきたいところです。
疲労感を減らすのに適した料理を5品だけご紹介します。作る余力がない方は、お総菜の選び方を参考にしてみてください。
じゃこチャーハン
ひと皿だけでたくさんの栄養を摂取できるのがチャーハンのいいところです。じゃこを使用することで、肉が食べられない時でも良質なタンパク質が摂取できます。カルシウムやマグネシウムといったミネラルやタウリンも含むのでおすすめの食材です。
鶏雑炊
雑炊は消化が良いので、エネルギーの確保に適しています。材料を増やすとチャーハンと同様にたくさんの栄養が摂取でき、食欲の促進・疲労の回復に力を貸してくれる簡単料理です。
卵はビタミンC以外の栄養素が詰まった食材なので、食欲がわかない時のお助けアイテムとして優秀です。
マグロの山かけ
山芋は滋養強壮食材ともいわれていて、たくさんの消化酵素を含んでいます。温性の食材でもあるので、体を冷やす心配もありません。
余裕があれば冷ましただし汁で伸ばすとアミノ酸の強化が可能です。ご飯と一緒に食べればエネルギーの確保にもなるので、食欲がわかない時の一品に添えるといいでしょう。
タコのカルパッチョ
カルパッチョを作らなくても大丈夫です。サラダにタコを乗せてドレッシングをかけるだけで、十分に栄養がたっぷりの一品ができます。
タコはタウリン・ビタミンE・ビタミンB12・ナイアシンなどが豊富です。タウリンは酸化ストレスの減少に適していて肝機能を回復させます。水溶性なので、できるだけ生の状態で摂取するのが望ましいです。
蒸し豚と梅マヨ
手間の少ない料理なので、時間がある時に作っておくといいでしょう。豚肉は疲労回復因子の産生を助けるビタミンB1が豊富で、梅干しは胃腸の働きを活性化させて食欲が増進されるので、ベストマッチな組み合わせといえます。
ただし、食欲がない時に肉を食べるのはつらいので、無理をして食べる必要はありません。
お総菜・テイクアウトの選び方
脂っこい料理や主食のみ(そば、うどんだけなど)を選ぶのは避け、できるだけたくさんのおかずを購入してください。主食(ご飯類)・主菜(肉、魚、卵料理)・副菜(野菜、豆類、海藻類)があるとバランスが取りやすくなります。
購入したお総菜は全部を食べる必要はありません。小分けにして食べられる分だけを食べることをおすすめします。
購入する時のポイントは色味のあるものを混ぜることです。栄養素で考えなくても、あらゆる色が混ざっていることで必然的にバランスが整います。
この記事のまとめ
- ストレスが多い状態では消化機能が低下するが、それ以前に体がサインを出しているので気付いた方がよい。
- 疲労感というサインをごまかしていると体の疲れは蓄積していく。疲労因子「リン酸化eIF2α」をそのままにしておくと、臓器が機能しにくくなり、食欲が低下して動けなくなったり最悪の場合は死に至ったりする。
- 疲れを感じている時に脳が反応してストレスを発生し、疲れを感じさせないためのホルモンを分泌させる。疲労感は減らせるが、体の疲れは蓄積していくので、ストレスに頼っていると動けなくなる。
- 疲労を減らすには疲労回復因子を増やすしかない。休息や軽い運動で増やせることが分かっているが、最も重要なのが休息を取ることである。眠れなくても休むことを重要視した方がよい。
- 休息は必要だが、エネルギーの確保は必要である。疲労感の回復に適した料理やお総菜の選び方でストレスでご飯が食べられない状況を打破する。