とんでもなく高貴なコンサートに行ってまいりました。
※いつも以上に自分語りをしています。お手柔らかに。
ストリングスで味わう会の感想
シカオちゃんは「地味なライブ」と話していましたが、これほどまでにぜいたくなライブは二度とないだろうと思い、しっかりと目と耳に焼き付けるつもりで音と言葉の渦に飲み込まれてきました。
森さんのピアノと今野均ストリングスカルテット(今野均、渡邉栞、三品芽生、奥泉貴圭((敬称略)))だけで始まる「アイタイ」。まるで、この日の私の心を見透かされたようで、涙がツーっと出てしまいました。こんなにアダルトな「アイタイ」が心に突き刺さるとは……。グワーッと体の中の何かが動きました。
私の記憶が確かならば、「ぼくたちの日々」の生歌唱は初めてでした。これだけでも聞きに行った価値があるというものです。あまりにも美声の「ぼくたちの日々」だったため、少し違和感があったものの、歌い手の声の変化とともに歩んでいるのかと思うと感慨深いです。
個人的にこの日のベストだった「これからむかえにいくよ」。10周年の武道館以来のアレンジだそうですが、残念ながら初めて行ったシカオちゃんの初ワンマンのことは覚えておらず……。森さんのピアノがあまりにもかっこ良すぎて、永遠に続いてほしかった時間でした。
終盤のアレンジは「Moanin’」だそうです。ジャズは好きですが、曲名は全く分からないので調べました(曲は存じております)。こんなに心をつかまれる「これからむかえにいくよ」は、『スガ+森で作った数々の名曲を、ストリングスで味わう会』でしか聴けないと思うと少し残念に思います(ここだけでもいいから映像化してほしい。願わくは全部)。
ここからは、しばらく森さんと2人きりの時間に切り替わりました。
笑ってはいけないのだけれど、石川県のボランティアライブの話には笑ってしまいました。どの年代でも「Progress」は知っていると思いますが、さすがに子どもたちはスガシカオ作品を知らないでしょう。「アンパンマンのマーチ」を歌っても全く盛り上がらず、トラウマになりそうだったとか。ヒゲダンやミセス辺りを歌ってあげれば喜ばれたかも!
2人のステージで感情を揺さぶられてしまったのが「木曜日、見舞いに行く」。まだデビューして間もない忙殺の日々の中、がんを患っていたお父様のお見舞いの度に感じたことを日記のように書きためてできた歌詞です。
当時のディレクターには、「明るく歌え」と言われたそうです。「歌い手が感情移入をしてしまうと、聴き手は感情移入ができずに引いてしまう」と今なら理解できるようになったと。そんなMCの後、レゲエ調の軽快なイントロと「薬のにおいが〜」のひと言で号泣でした。明るく歌われるから余計に……。
実は、大感謝祭の時に聴いてみたかった曲に入れていました。初めて生で聴いたし、今だからグサッと刺さるし、親の命が消えゆく日々の情景がバッチリと脳裏に浮かぶしで涙が止まりませんでした。会場にいた皆さん、親が亡くなっていたら似たような感情を持っていたのではと思います(今、聴きながら書いていますが、顔がボロボロです)。
“また来る…”とだけ言い残した 臆病なぼくをゆるしてほしい
続いてゆく全てのことが 永遠じゃないこと
「木曜日、見舞いにいく」の歌詞
この2つのフレーズに、父が亡くなる前の2週間程度で起きた感情が集約されています。私には書き残せなかったけれど、天才スガシカオは書き残していました。上から目線で申し訳ないですが、本当にあっぱれです。
私は父のことがあまり好きではなかったので、父が亡くなったとて泣くことはないだろうと思っていました。それなのに、自分の一番近しいルーツの半分が消えるとこんなにもポッカリと心に穴を開けるのかと、冷静に感じ取りました。親としては好きではありませんでしたが、社会人として尊敬はしていたので、今だったら何を話すのかなとも思います(生きていたら生きていたで話すことはないことも分かっている)。
シカオちゃんのお父様は前日に23回忌を終えたばかりでした。私の父は今年で7回忌を迎えます。法要を行う年に、「木曜日、見舞いにいく」を森さんの演奏だけで聴けたことはとても感慨深かったです。
多くのスガマニアが絶賛していた「痛いよ」は、「木曜日、見舞いにいく」で完全に心を持っていかれてしまって正直に記憶がありません(やはり映像化希望)。とても残念です。
「気まぐれ」前のMCでは、一番で「ゲームして、エッチして、寝て」を繰り返す大学生の日常を描き、二番で9.11の世界同時多発テロを描いていることが語られました。“君”はそれぞれの国の“神”。この情景を思い描きながら没入しました。なんともアンバランスな人間の世界を、レコーディングの完全再現で聴くぜいたくな時間を過ごしている私たちに、非常にアンバランスさを感じた瞬間でした。
人は常に進化しているし、世の中はどんどん便利になっているし、私たちも少しずつ年齢を重ねながら深みを増しているはず! それなのに、人の行動はこの世界ができた時から大して変わらないのだと考えさせられました。日記のような独り言のような歌詞なのに、この曲の深さを思い知らされた気がします。
この後、「ふたりのかげ」「夜空ノムコウ」「アストライド」が続いたのですが、呼吸ができていたのか分からないくらい深くて薄暗いスガ森カルテットに飲み込まれていきました。二度とこのセットリストでは歌ってもらえない気がします。
MCを挟んだ後の「ストーリー」「19才」で、会場がいつもの雰囲気に変化しましたが、立ち上がる方はいなかったので非常につらかったです。
アンコールは「午後のパレード」で苦笑いしてしまいました。このアレンジでも盛り上がり、全員で午後パレダンスを楽しめましたが、ダンスの見本がいないので適当にしか踊れませんでした(相変わらず覚えていないダメマニア)。
メルマガにある通り、萩田光雄先生の天才的スコアを完全再現された「坂の途中」。なんとか生き抜いた20代後半から30代半ばの個人的応援ソングを、このぜいたくな空間で聴けるなんて思ってもみませんでした。森さん、リクエストをありがとうございます! 感無量です。
本来ならここで終わるはずが、新曲「あなたへの手紙」が披露されました。現時点(4月9日)では配信もされておらず、フルで聴けたのはこの時だけです。
三島由紀夫がアーカイブ映像で語っていた「人間は自分のためだけに生きていけるほど強くない」という言葉、マツコ・デラックスがテレビ番組で語っていた「どこかで人の心が動いてその人の人生が良い方に動く瞬間を一瞬でも見られたら生きてて良かったと思える」という発言、そして前述のボランティアライブでの経験の集約から歌詞が生まれたという新曲「あなたへの手紙」を最後に披露してライブは幕を閉じた。
スガ シカオ、ストリングスが引き立てた独自性 デビュー記念日を祝した一夜限りのTDC公演
内田さんの文章をお借りしました。最後のMCで、私はこんなことを感じたのでした。
昨今の「自分のために生きる」みたいな風潮にずっと違和感を覚えていて、アンコール最後のシカオちゃんのMCで腑に落ちた感じ。
— 🦖ちえ(^灬^) (@fnutrients_c25) February 26, 2024
私利私欲
その瞬間だけは気持ち良いのだが、長くは続かないのよね。結局人は、自分以外の人のために命を燃やして生きているのだと思う。
今のシカオちゃんだから書けただろうし、今のシカオちゃんの声でしか歌えないだろうし、今の年齢だから共感できる曲なのだと思いました。
本当にぜいたくだったデビュー27年目。もしもまた、このメンバーだけで聴かせてもらえるなら、音響が良くて座り心地の良いホールで聴きたいです(サントリーホールだったら最高)。そしてぜひ、ドレスコードもありでお願いします。
ストリングスで味わう会のセットリスト
- アイタイ
- ぼくたちの日々
- 黄金の月
- これからむかえにいくよ
- フォノスコープ
- 愛について
- 黒いシミ
- 木曜日、見舞いに行く
- 痛いよ
- 気まぐれ
- ふたりのかげ
- 夜空ノムコウ
- アストライド
- ストーリー
- 19才
- Progress
- 午後のパレード
- 坂の途中
- あなたへの手紙
全ての感想は書けませんでした。それだけ8曲目が心をえぐってきたのです。
自分の気持ちとはリンクさせずに、じっくりと音に触れたい! それが私のささやかな願いです(映像化の催促)。