南国よりも暑い日本の夏。バテ気味で食事が全く喉を通らないと嘆いている方も多いでしょう。
しかし、熱中症の予防には食事が最も有効。できるだけ手間を掛けずに、体内の水分や細胞の浸透圧を調節するイオン(電解質)を保つかんたん食術をお伝えします。
決して「素麺だけ」「うどんだけ」のような食事に偏らないようご注意を。
バテ気味で食事ができないのは防衛反応
簡単にいってしまえば、もともと栄養不足に陥っている方がバテやすくて食事ができない方向に向かいます。
その理由として挙げられるのが間違った熱中症対策です。
「熱中症対策には水分補給だ! 」と冷たい飲み物をガブガブと飲んでいると内臓が冷えてしまいます。これが消化能力の低下を引き起こし、食欲不振の状態を作り出します。
さらに、甘い飲み物や食べ物を食べ過ぎていると、血糖値が上がって早々に満腹感を得ます。その結果として大切な食事がおろそかになりやすいです。
食欲不振の状態だと脂質やたんぱく質が消化できないので、食べやすい食事(素麺、うどんなど)しか受け付けなくなってしまいます。
カフェインやアルコールを含むドリンクは利尿作用が強いので、水分補給に含んではいけません。摂取量が多ければ出ていく水分が多くなり、熱中症になる危険性が高まるため、プラスαの水分補給が必要です。ノンカフェインであっても、ハーブティーも利尿作用が強いので注意してください。基本は食事から水分を摂取するように心がけましょう。
真夏日でも問題なく普通の食事ができる方は、栄養を常に補給できるのでしっかりと自分のエネルギーで走れます。エネルギーが減った状態でもすぐに栄養補給ができるため、「食べられない」「眠れない」「動けない」といった状況に陥りにくいです。
消化能力が落ちている場合は、体内の仕事(内臓機能、脳機能など)も外部の仕事(仕事、育児など)もエネルギーのない状態でどうにか回さなければいけません。仕事量は減らせないので、消化に使う余力がなくなり、さらなる食べられない状態を招きます。
追い打ちをかけるのがエアコンの冷たい風です。体表面が冷えているのに体内まで冷やしてしまったら、いつの間にか電池切れになることも……。熱中症になりやすい体を作るだけではなく、秋や冬の体調にも大きく影響を及ぼします。
水分&ミネラル&アミノ酸を補給するかんたん食事術5選
熱中症予防に水分補給は必要ですが、何も水分だけで満たそうと考えなくていいです。食事からも水分は賄えます。
たんぱく質代謝の過程で水分は作れますが、食欲が低下している方の場合は消化能力が乏しいため、無理をするとかえって体調悪化につながります。
ご飯&みそ汁+α
最も簡単な方法がご飯とみそ汁を食べることです。ご飯は水で炊くので水分を多く含んでいます。みそ汁も約200ccの水分が含まれます。
みそ汁はとても優秀で、出汁とみそのおかげでアミノ酸(たんぱく質の最小単位)が効率良く摂取できて、熱中症対策には欠かせない塩分も摂取できるので一石三鳥です。具材を変えることによってたんぱく質・野菜(これも水分)・カリウムやマグネシウムといったミネラルをバランス良く摂取できます。
プラスαの料理には、みそ汁には使用していないたんぱく質や野菜を取り入れた料理をおすすめしますが、料理が億くうなら豆腐にじゃこをかけたり簡単な卵料理を添えたりするといいですね。ネバネバ系食材(納豆、オクラ、めかぶ、山芋のすりおろしなど)にマグロを添えるというのもいいでしょう。
※作る気力がないという方は、じゃこご飯・ねこまんま・納豆ご飯などを食べてください。
塩のみで漬けられた梅干しを食前に、梅干しが苦手ならば酢の物を少しだけ食べてください(ところてんなら洗って盛り付けて酢じょう油をかけるだけ)。これだけで胃酸の分泌に力を添えますし、何よりも唾液が出るのでご飯のデンプンもしっかりと分解してから胃に送り込めます。
たい茶漬け
タイが最もポピュラーなのでたい茶漬けをご紹介しますが、白身魚であればおいしく作れます。
たい茶漬けの良さは、やはり出汁でしっかりとアミノ酸を摂取できるところです。魚は肉に比べると消化に負担がかからないものが多く、食べやすいのも大きなポイント。
みょうがやしそなどの薬味も添えるといいですね。
- タイの柵または盛り合わせ(天然がオススメ)を購入。
- 白ごまと黒ごまをすり、みそに混ぜて刺し身に塗る。
- お好みの薬味を用意する。
- 出汁をしっかりめに取る(昆布&かつお節がおすすめ)。
- 冷ご飯を準備する。
- サラサラと食べるのを防止するため、一口ずつタイを乗せては熱い出汁をかけて食べる。
スープカレー
カレーは作る気力がないと難しいかもしれませんが、スパイスのおかげで食欲が復活するので頑張れそうな時に作ってみてください。
ポイントは市販のルウを使わないこと。いわゆる“シャバシャバ系のカレー”です。水は使わずに、ボーンブロススープもしくはかつお出汁を使ってみてください。具なしカレーを作っておいて冷凍しておくのもオススメです。
ボーンブロスを作る気力がない方は、液体の鶏ガラスープを使用するといいでしょう。
- ボーンブロススープまたはかつお出汁を作る。
- 玉ねぎが透明になるまで炒める。
- カレー粉、にんにく、しょうが、好みのスパイス、肉(なんでもOK)、塩、こしょうを加えて炒める。
- トマト・ストック野菜(人参、じゃがいも、セロリなど)とスープまたは出汁・しょうゆ少々を入れて煮込んでいく。
- 野菜に火が通ったら水溶きかたくり粉または米粉で少しとろみをつける(入れなくてもよい)。
- オクラやいんげんなどをゆでておき、余力があればゆで卵または温泉卵を乗せる。
- ご飯を添えて完成。お好みでパクチーやクレソンを添える。ご飯をカレーに浸しながら食べる。
ポイントはいいお鍋を使うこと。私はバーミキュラまたはストウブで作ることが多いのですが、野菜のうま味と甘味が引き出されるのでほとんど味付けをせずに済んでいます。料理が苦手な人ほど調理器具に投資することをおすすめします。
そもそもの話、料理をする気力すらないという方は、お店で食べるかテイクアウトをするかのどちらかにしましょう。サラッとしているスープカレー・スリランカカレー・スパイスカレー・ネパールカレー(インネパ以外)がおすすめです。
鶏飯
鶏飯は奄美大島の郷土料理です。ダイバー時代に一度だけ遊びに行ったことがあり、そこで食べてから気に入って作るようになりました。
難しいことは考えなくていいです。鶏出汁と鶏肉と錦糸卵さえ作れれば簡単にできます。私は冷凍庫に鶏胸肉のゆでて割いたものとゆで汁をストックしてあるので、これを解凍して使います。
調理する気力がない方は手を抜きましょう。市販の鶏ガラスープ(液体)、添加物の少ないサラダチキンで代用できます。
- 鶏がらスープに生しいたけを入れて温める(希釈タイプは水分で調整する)。
- 味付け(しょうゆ、みりん、酒)をする。
- サラダチキンをほぐしておく。
- 錦糸卵を作る。
- しいたけを食べやすい大きさに切る。
- お好みの薬味を用意する(ネギ、しょうが、のり、ごまなど)。
- ご飯に鶏肉や卵などを乗せ、出汁をかけながら食べる。
本場の鶏飯は甘く煮たしいたけが添えられていますが、わざわざ作るのは面倒なので、私は出汁と一緒に煮て適度に味付けをしてしまいます。
冷や汁
冷や汁はその名の通り“冷たい汁”をご飯にかけて食べます。
体内は冷やしたくないですが、「今日は熱々料理なんて無理」という日もあるでしょう。そんな日の食事としておすすめです(別に温かいものを食べればOK)。
本来は焼き魚(基本はアジの干物)で作るのが一般的です。魚を焼いて作った方がおいしいのは確かですが、手間を掛けたくない日には缶詰やじゃこを代用しましょう。
- 水煮缶(サバ、イワシ、サンマなど)の身と汁を分ける。
- すり鉢に身と手で適当にちぎって入れた木綿豆腐を入れ、軽くすりつぶす。
- きゅうりを輪切りにし、軽く塩をふって水を出して絞る(私はきゅうりのぬか漬けを代用)。
- 缶詰の汁は鍋に入れ、適量の水・しょうが一かけ・酒少々を煮立たせる(面倒でもこれをやっておくと臭みが飛ぶ)。
- すりごまとみそと温めた汁をすり鉢に加える。
- 冷ましている間に薬味を用意する(みょうが、しそ、かいわれ大根など)。
- ご飯に汁をかけ、薬味・きゅうりを添えて食べる。
じゃこを代用する時は、フライパンで軽く炒ってから使うといいです。出汁が足りないので、汁を作る時にかつお節を加えてください。
冷たい麺がおいしい季節。食べるのがNGではありません。単品で摂取するのではなく、ネバネバ食材・納豆・卵・ゆでた肉・かつお節・葉物野菜などと一緒に召し上がってください。
かんたん食事術の問題点と薬味の素晴らしさ
かんたん食事術の問題点
たい茶漬けの部分で少し触れましたが、どの料理もほとんどかまずに食べられるのが大きな特徴です。
しかし、しっかりとかまずに飲み込むのは胃に負担がかかるので、ご飯にかける汁は少なめにしてしっかりとかみながら食べることをおすすめします。これを意識するだけでも消化に負担はかかりません。
かまずに飲み込まないためのポイントとしては、具材を大きめにしておくことです。具材が大きければしっかりとかむ必要があるので、小さく切るのはやめておきましょう。
全てに薬味を追加しているのは咀嚼(そしゃく)をさせるためでもあります。
薬味の素晴らしさ
上記で紹介した薬味には、積極的に摂取しておきたい栄養素が多く含まれます。
薬味から摂取できる栄養素は微々たるものですが、食事の度にちょこちょこと補給することで栄養素の底上げができます。
薬味 | 多く含まれる栄養素 |
---|---|
みょうが | ビタミンK、モリブデン、マンガン |
しそ(大葉) | ビタミンK、モリブデン、マンガン |
しょうが | マンガン、モリブデン、カリウム |
かいわれ大根 | ビタミンK、ビタミンC、葉酸、モリブデン、マグネシウム |
パクチー | カロテン、ビタミンK、カリウム、ビタミンC、ビタミンE |
のり | たんぱく質、ビタミンK、ビタミンB12、葉酸、ビタミンA、ヨウ素、モリブデン |
植物性のビタミンKは「ビタミンK1」です。油と一緒に摂取することで吸収され、「血液凝固」「骨の石灰化」を助けます(ワーファリン服用者は要注意)。
「モリブデン」は一般的にはあまり意識されていないミネラルですが、プリン体を尿酸に分解する役割があります。その他に、「糖質・脂質の代謝」「貧血予防(鉄を利用しやすくする)」を行います。
「カリウム」はむくみ予防に重要なミネラルです。ナトリウム(塩分)によって過剰になった水分を排出し、水分のバランスを保って血圧の調整にも関わってくれます。その他に、「筋肉の収縮」「神経伝達」「ホルモン合成」「細胞膜の輸送」といった大きな役割を果たします。
「マンガン」は吸収率の少ないミネラルですが、たんぱく質やDNAを合成するのに必要な酵素の補酵素として働きます。「三大栄養素の代謝」「骨の発育促進」「抗酸化作用」としての働きもあります。
この中でものりはとても優秀です。たんぱく質が豊富で、貧血(正しくは巨赤芽球性貧血)予防にもなるビタミンB12・葉酸を含んでいます。おやつ代わりに食べるのもおすすめです。ただし、ヨウ素が多いので、甲状腺機能に問題がある方にはおすすめできません。
この記事のまとめ
- 多くの方が取り入れている熱中症対策が食欲不振を起こし、熱中症を起こしやすい体作りをしている可能性が高い。このような状況でも体の働きは止まらないため、夏バテや秋バテを引き起こす。
- 熱中症対策において水分補給は重要だが、水分やミネラルなどを効率良く摂取するには食事が最重要である。30分程度で作れてしまう簡単料理で体力を維持する必要がある。
- ここで紹介したかんたん食事術には、かまずに飲み込めるという欠点がある。しっかりかんで食べられるように、食材の切り方に工夫をする。
- 紹介した薬味にはからだの機能を維持するのに重要な栄養素が含まれているだけではなく、ゆっくりと咀嚼(そしゃく)しなければ飲み込めない食材としての役割も果たす。
『栄養の教科書 改訂新版』中嶋洋子 監修
『世界一やさしい!栄養素図鑑』牧野直子 監修/松本麻希 イラスト