子供の食育にスポットを当てた非常に考えさせられる小説『かすがい食堂』。大人にも当てはまるので、食と健康情報に振り回されている方には読んでいただきたいです。
食事の正解とは
世の中にまん延する食と健康の情報。真面目な人、病気や不調を抱えている人、身内に病気や不調を抱えている人がいるとハマりやすいです。
「食事の正解って一体なんだろう?」と考えさせてくれる小説でした。
柱になるのは4人の子供たち。
- 夕飯の代わりがお菓子の翔琉(かける)
- 人の食べ物を動物に与える凛(りん)
- 摂食障害の夏蓮(かれん)
- 生活困窮世帯の亜香音(あかね)
映像制作会社を辞めて祖母が営む「駄菓子屋かすがい」を継いだ楓子が、子供にしては大金である300円分のお菓子を購入して帰る翔琉の食生活が気になったところから「かすがい食堂」をスタートさせました。
お節介と言えばお節介。でも、それまでは食事に関してはおざなりで、料理すらしたこともない楓子が食を考えるきっかけになったところが面白いです。
食への興味は簡単には育たないこと。動物に与えてはいけない食材のこと。いつでも簡単にダークな世界に陥ってしまうこと。親のプライドにより子供が食にありつけなくなってしまうこと。その辺りを一緒に考えさせてくれます。
楓子がお節介をまき散らすだけでは疲れますが、問題の向こう側に祖母や子供たちと真剣に向き合って一緒に成長していく姿がずしりと心に響きます。
小説だからというわけではなく、食に正解はないから明確な答えは出てきません。読みながら自分の食や健康に関する認識をあらためられる一冊でした。
食と健康はもっと自由でいい
最も読んでいただきたい部分は摂食障害に陥った夏蓮のお話です。摂食障害にこそならなかったものの、自分自身も陥ったわながちりばめられていました。
私が栄養に興味を持ったきっかけは長くなるので割愛しますが、「ある人のために」がいずれ自分に向けられて、楽しかったはずの食事が全く楽しくなくなった時期があります。
その理由が『かすがい食堂』の第三話「呪われた症状が望んだもの」で描かれています。
ライバルや大人の言葉をきっかけにダイエットを始めた夏蓮は、真面目に健康的なダイエットを行います。情報に左右されるうちに、食べることを拒絶するようになるのです。
ここに出てくるキーワードがこちら。
- 有機栽培の野菜や果物
- 食品添加物の危険性
- 1日30品目
- 糖質制限
- グルテンフリー
- 菜食主義
- ヴィーガン
など
これらの情報に振り回されているうちに、食べることが怖くなった人の代表が夏蓮です。大人でも多いと思います。私も一時期はこうでした。
摂食障害を克服する話ではないので、克服するためのストーリーは描かれていませんが、打破するためのヒントは書かれています。食に関する興味が育っていなかった翔琉から出た言葉です。
私はグルテンフリーをしていた時に「これはマズいぞ」と感じたことがあったので方向転換をしました。しかし、その先に行ってしまうと難しいので、こういう場合は誰かと協力しあって方向転換をする必要があるでしょう。
栄養を知るきっかけはあった方がいいですが、次々と目に入ってくる栄養情報が正しいとは限らないし、自分に合うとも限りません。
テレビの健康番組・食事や健康関連の本・インフルエンサーの声はダイレクトに響いてしまうため、別の角度から見る心の余裕が必要なのではと考えます。健康を失う可能性も高いので、一つの面からではなく多角的に見る視点は非常に大切。
ある食事法・健康法が出てくると、それに対して批判する情報もセットで出てきます。『かすがい食堂』ではどちらも否定しておらず、もっと人の心に寄り添った優しさがあふれていました。
迷路に入り込んでしまったなら、ぜひとも自分なりの「食の楽しみ」を作ってみてはいかがでしょうか。